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2007年05月03日 02:30に投稿されたエントリーのページです。

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悪徳旅行会社に怒りの鉄槌を──NHKスペシャル「高速ツアーバス 格安競争の裏で」

NHKスペシャル|高速ツアーバス 格安競争の裏で
http://www.nhk.or.jp/special/onair/070430.html

いやー、見ていてホントに憤りを感じました。
テレビを見てここまで憤ったのは、久しぶりなんじゃないかと。

まず、番組の要点をざっと挙げると、こんなところ。

●高速ツアーバスの運転手は、過酷な労働状況で働くことを強いられている。

●バス会社は、バスツアーを企画する旅行会社からチャーター料を支払われているが、その金額は法で定められた額の半額以下。つまり、旅行会社は法律違反を犯している。

●2000年の規制緩和以後、バスツアーを発注する旅行会社の発言力が増している。そのため、旅行会社が提示する法律違反の金額を、バス会社は涙をのんで受け入れている。

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以下、もう少し詳しく番組の内容にふれていこう。

■運転手

番組に登場したのは40代後半の運転手。ドライバー歴24年、かつては観光バス会社に勤務していたが、所属していた会社が相次いで消滅の憂き目に遭い、やむなく今の会社に入った。
以前なら仕事が終わった後は家族団欒を楽しむことができ、年収も600万円ほどあったが、今の会社では殆ど家に帰れず、収入もかつての3分の2に。大学生のお嬢さん2人への教育費もかかるし、生活は苦しい。
夜食は5分。高速道路のサービスエリアでの休憩時間(20分)になると、最初の5分で大急ぎでカレーを掻き込んで、残りの15分で車両の簡単な点検。

ここだけ書くと「なんて酷いバス会社だ!」ということになるが、苦しいのは運転手だけじゃない。こちらの運転手を雇っているバス会社も競争に晒されて経営が苦しく、ギリギリの操業を強いられている。

■旅行会社

そんなバス会社を追いつめているのは、バスツアーを企画する旅行会社。
その代表として番組に登場するのは、高速バスツアーの最大手ウィラートラベル。ここの社長の視点というか考え方が、経営者的なもの一辺倒。

「運賃を下げることが消費者(乗客)にとってメリットになる。それには疑いの余地もない」と語るが、「運賃を下げる→バス会社が苦労する→運転手が過酷な労働を強いられる→安全が脅かされる」という思考回路はこの人にはない。
「料金を下げることでバス会社各社が経営努力をすることになる。その努力の中には安全への取り組みも当然含まれる」という考え方の持ち主。

彼の持論は、「バス会社にはもっと経営改善の余地がある。そうすれば、たとえ法定価格より安い価格でも安全にバスを走らせることができるはず」というもの。そう考えるのは、自前で立ち上げたバス会社の経営が順調に推移しているから。
操業開始にあたって導入した15両のバスは国産ではなく、すべて韓国製。価格は大幅に抑えることができたし、品質にも問題はないという。

大阪・吹田で起きたあずみ野観光バス(長野)の事故以降、長距離バスの安全に対する世間の関心が高まったことを受けて、彼はバス会社にある提案をする。
それは、「乗客からの評価」という新しい競争原理の導入。

■労働組合と運輸局

バス運転手でつくる労働組合(1社のものではなく各社の運転手が所属する組合)は現役の運転手にアンケートを行い、今のバス会社が抱える「法定価格より安いチャーター料での仕事の受注を強いられている」という問題点を浮き彫りにした。

その結果を受け、彼らは近畿運輸局に対して「旅行会社が法定価格でバス会社に仕事を発注するよう強く指導してほしい」と改善を申し入れた。それに対する近畿運輸局課長からの回答は「バス会社が法定価格で仕事を引き受けるよう善処願いたい」。

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とまあここまで番組の内容を綴ってきたので、ここからはいよいよ私の思ったことを順不同で書いていきたいと思う。

そもそも法定料金以下の金しか払っていないくせに、それをもっと安くしろと言う(ウィラートラベルをはじめとする)旅行会社は、どう考えてもおかしい。

旅行会社は、まず法定価格でのチャーター料をバス会社に支払うのが筋。バス会社にお金が入らなければ、老朽化した車両を置き換えることもできないし、需要増に対応するための運転手の増員も図れない。

●件の運転手の月給だけど、増務に増務を重ねてやっと32万円。いくら何でも安すぎ。
私だってピーク時にはその倍近く稼いでますよー。睡眠時間は多少削るけど、そもそも睡眠時間が短くちゃやってられない私だから、6時間は最低でも寝ている。
私より10歳以上歳がいっていて、肉体的にも精神的にも辛い状況で働いていて、しかも睡眠時間も精神的ゆとりも少ない運転手が、こんな月給で働いていいはずがない。

●運転手について、「ワッパ持ってるだけでしょ」「運転席に座ってるだけで、大して体も動かさないから楽」なんて考えてはいけない。運転席の後ろには何十人もの乗客。その人達の命を預かっているんだから、緊張感が違う。

●ウィラートラベルの社長は「(韓国製の)安い車両を導入すれば、それが経営改善の一端になる」というが、それはゼロから始めた会社だからこそできることであって、古い車両を多く抱えた会社が一朝一夕に替えることなんかできるはずがない。

人間、何か良い結果を残すには、その前段階がなければならない。別の言い方をすれば「反動」「元手」になるだろうか。
世の中には、「一時はホームレス生活を送っていた人が起業に成功した」とか、「引きこもり状態だった人が会社に入り仕事でめざましい成果を挙げた」という話がある。その人達にとっては、ホームレス生活や引きこもり状態が一種のバネになったのだ。鬱屈した日々が反動となって、その後の良い成果を生み出しているのだ。

それと同じことで、バスを買い換えようにもその元手となるお金が手許になければどうにもならない。お金がなくて苦労しているんだから、そんな状況で「安いバスに買い換えろ」なんて言うのが大きな間違い。「借金すればいい」って言う人もいるかもしれないけれど、そんな会社に金を貸す金融機関が果たしてありますか?

●ウィラートラベルの社長は各バス会社に対して「(経営の)努力をしろ」というが、疲弊した人や会社に対してさらに努力を強いるのはそもそも間違い。

努力というのは、アップアップの状態でできるものではない。例えば、42.195kmを走り終えたランナーに「努力してあと10km走れ」って言われてできますか? そんなはずないでしょう。

不当な価格で仕事を受けざるを得ないバス会社は、悪者ではない。

いじめを受けている子に対して「いじめっ子に立ち向かっていかないのが悪い」って言ったり、過労死した労働者に対して「過労死する前に声を上げないのが悪い、過労死は労働者の自己責任」って言うのと同じ。
たしかに声を上げる勇気は必要ではあるけど、そんな勇気がないから苦しい状況に甘んじているわけで、こういう人は「なぜ声を上げられないのか」のメカニズムにまで考えが及ばない。

自分も、フリーランスで仕事を請け負っている立場だから、安いチャーター料で仕事を引き受けることを余儀なくされているバス会社の気持ちはわかる。
次の注文に繋げるためには、多少無理をしてでも(不利な条件でも)請われた仕事は引き受けなきゃならないときがある。誰が好き好んで不利な条件で依頼を請けますか? 生き残っていくためなんですよ。

●不当な価格で仕事を依頼する旅行会社への対抗策。
こうなったら、各バス会社がオフサイドトラップでもかけるしかないんじゃなかろうか。どのバス会社も一斉にウィラートラベルなどからの受注をボイコットして。

それにしてもウィラートラベルの社長、ろくな死に方しないんじゃないかと思う。いつの日か天罰が下らんことを。
こういう番組に名前と顔を出して出演する辺り、面の皮が相当厚い人物とみた。

まあ、冷静に考えればこの会社だけを叩くのはお門違いだろう(他にも同じような会社があるだろう)し、悪徳旅行会社の代表として世間にアコギな商売の一端を知らしめてくれた社長にはむしろ感謝すべきかもしれませんが。
それと、番組で取り上げられた兵庫県のバス会社はある意味ラッキーだったかも。他にも似たような状況を強いられている会社はあるでしょうに、その代表として世間に名前を知ってもらえたことは決してマイナスにはならないでしょう。

あと、監督官庁たる近畿運輸局は当然怠慢ですな。「いじめられているなら声を上げろ」なんて言わないで、いっぺんいじめられる立場になってみればいいと思います。

最後に一言。
過当競争の行く先は「破滅」。それしかないと思います。